2007年8月30日木曜日

 社会保険庁の年金記録問題について,新聞や雑誌を見ているといつも悲惨だなと思います。漢字表記の名前をいいかげんに推測してカナに変換する,台帳記号番号の誤記を見逃すなど,記録や管理がズサンでした。このほかにも,1人に何冊も年金手帳を発行してしまう,結婚で姓が変わると過去の年金記録とリンクしなくなる場合がある,といった制度的なもろさもあります。

 社保庁は,膨大な年金記録のデータの品質を維持・保証し,申請内容の確認や変更管理などの業務を適切に遂行する仕組みを持っていなかったのが露見したわけです。本来は,就職や転職,結婚,退職,死亡など人のライフサイクルを見渡しつつ,社会保険に関する業務全体を分析し,全国各地の事務所やさまざまな部門でデータを矛盾なく一元管理できる体制を作らなければなりません。

 年金記録問題の解決は,本当に大変だと思います。ところが,この数カ月の経緯を見ていると,もっと深刻な問題が潜んでいるようにも感じます。

 該当者が見つかっていない5000万件のデータの名寄せやそのコスト,時効の未払い年金の扱い,社保庁長官や厚生労働省のトップ更迭・交代などについてはよく話題になっています。しかし,前述のように年金のデータの品質を確保し,大量のデータを効率的に管理する仕組みを作るにはどうしたらよいか,という本質的な問題はあまり議論されません。ごくたまに指摘されることはありますが,単発的に終わっているようです。

 つまりデータの品質保証と業務を適切に遂行する仕組みについては,とても重要なのですが,なかなか日が当たらない,とあらためて感じました。

 個人情報がからむ年金の問題とは少し状況は異なりますが,製造業にも似た話があります。例えば,部品の名称やコードが全社で統一されておらず,事業部間あるいは開発・生産・営業部門間でバラバラになったまま放置されている企業は多いと思います。そういう会社では通常,全社の業務の分析や擦り合わせが行われていません。つまり部門をまたぐ連携は困難だったり,断片的だったりします。

 その結果,製品仕様や注文量の変更に部品調達や生産体制が追随できない,売れるものは欠品になり売れないものばかり作って在庫を増やしてしまう,といった悲鳴をあげている企業は,かなり多いのが実情です。もっと恐ろしい話は,現場のデータ連携や業務の仕組みを経営者がわかっておらず,外部のコンサルタントのいいなりになって仕組みを改悪した例です。それまで製番管理でうまく個別受注していたのを,無理やり規格品の大量生産に向くパッケージなどを使う仕組みに変えてしまい,競争力を失ってしまった企業が少なくありません。

 もちろん,こういう観点で会社全体を見つめ直し,積極的に手を打っている企業もあります。キヤノンでは,全社を挙げてデータ項目や用語などの統一を図り,コンカレント・エンジニアリングや,品質の問題を上流から対策していくフロント・ローディングに役立てています。また,トヨタ自動車は,部品表の統合を進めてきました。5年ほど前から,設計用,試作用,生産準備用,部品手配用など,用途ごとにあって整合性を保つのが難しかった部品表を一元化してきました。

 こうした取り組みは,地味で,すぐに売り上げや利益に貢献するわけではありませんが,大事な事業基盤になります。製造業にとって,社保庁の年金記録問題は“対岸の火事”とは言えません。経営者は,足元の開発や生産,営業の現場がとまどっていないか,自分自身は事業構造をきちんととらえているのか,見直した方がよいかもしれません。


問題は山積みですね・・・